資本性劣後ローンと社債型優先株

会計・税務
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コロナの影響で資本性劣後ローンや社債型優先株の利用を検討している会社は多いかと思います。

通常の借り入れとは少し質の違う借り入れ形態なので会計上の取扱いをメリット・デメリットを含め調べました。

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資本性劣後ローンとは、

資本性劣後ローンとは、破産や倒産などが起こった場合に弁済が他の債務に劣後する債務です。

破産や倒産が起きた場合、一般的には、

  1. 税金などの優先債権の弁済が行われる。
  2. 弁済原資がまだ残っている場合は、一般債権の弁済が行われる。
  3. それでも弁済原資が残っている場合に、劣後債権の弁済される。

このように、弁済が困難になった場合に一番最後に弁済する債務が資本性劣後ローンです。

では、資本性劣後ローンのメリットとデメリットは?

メリット:
金融機関が融資を行う際の金融審査において、「負債」ではなく「自己資本」としてみなされる

デメリット:
債権者側は一般債権に比べリスクが高いため、金利が高くなる傾向がある。

資産より負債が多くなってしまった状態の「債務超過状態」ではお金を借りるのが困難なケースが多いです。

しかし、資本性劣後ローンを利用することで「債務超過」を回避することができるので、利用価値はケースによっては十分にあります。

資本性劣後ローンの会計処理

資本性劣後ローンは会社法上は借入に該当しますので、会計上も借入になります。

借入時:現預金/借入金

利払時:支払利息/現預金

返済時:借入金/現預金

通常の借入金と全く同様の会計処理ですね。

社債型優先株とは

資本性劣後ローンは法的には借入でしたが、資本性劣後ローンの特徴をそのまま保ちながら法的には株式したものが社債型優先株です。

社債型優先株は配当金を他の株主より優先して高くする代わりに、株主総会における議決権がなく会社の重要な意思決定に参加できません。

また、優先株は株式であるため会社が破産・倒産した場合には、原則として払込額は返還されません。

このような種類株式を発行することで、資本性劣後ローンとほぼ同様の資金調達が可能になります。

メリット:
優先株は株式を発行した資金調達なので、金融審査上でも会計上でも「資本」になる

デメリット:
資金調達時は「新株発行」という会社法の手続きが必要で、返済時は「減資」+「資本剰余金を財源とした配当」という手続きが必要になり、手続きが煩雑。
また、資本金が増加するため中小企業の優遇措置を受けられなくなることもある。

資本性劣後ローンでは金融審査上のみ資本として扱われ、審査する金融機関によっては「借入から数年間だけ」などの期限があるところもあるようです。

一方、社債型優先株は「資本」なので、原則として「審査機関によって異なる」というような制約は受けません。

しかし、資金の調達と返還は会社法上「増資」と「減資+配当」にあたりますので、相応の手続きが必要で資本性劣後ローンと比べて煩雑です。

社債型優先株の会計処理

社債型優先株とはいえ株式の発行ですので、払込まれた金額の半分以上を資本金に組入れる必要があります。

仮に1億円の優先株を発行する場合には、5千万円は最低でも資本金が増加します。

最低額を資本金に組入れる場合

発行時:現預金1億円/資本金5千万円
           資本準備金5千万円

配当支払:未払配当金/現預金

払戻時:資本剰余金/資本金
          資本準備金
    現預金/資本剰余金


※下記、社債型優先株の払い戻し(返済)に関して(2020/7/2追記)を参照

株式の発行により資本金が増加します。

中小企業の判定は資本金と従業員数で行われることが多く、資本金の額が増えると中小企業の優遇措置を受けられなくなる可能性があります。

優遇措置を受けるためにも、払戻時の財源を確保するためにも、早い段階で減資を行うのが良いかもしれません。

社債型優先株の払い戻し(返済)に関して(2020/7/2追記)

社債型優先株の発行に関しては、「資本金の増加」「発行株式数の増加」「株主から金銭等の払込」は発行手続き1つで同時に行われます。

しかし、社債型優先株の払い戻し(返済)の時は、「資本金の減少」「株主への払込金の返金」「株式数の減少」はそれぞれ別々の手続きとして行わなければなりません。

したがって、社債型優先株の払い戻し(返済)に伴い「優先株の取得者へ返金し増加していた資本金と株数を元に戻す」には、以下の3つ手続きが必要です。

  • 資本金の減少 → 減資
  • 払込金の返金 → 自己株式の取得
  • 株式数の減少 → 自己株式の消却

払い戻し(返済)に関する会計処理は以下の通り

資本金の減少:資本金/その他資本剰余金
払込金の返金:自己株式/現預金
株式数の減少:その他資本剰余金/自己株式

最低限「自己株式の取得」手続きだけで優先株の所有者へ返金は可能です。

「株式数が増えたまま」「資本金が増えたまま」でも良いという場合は、それ以上手続きする必要はありません。

しかし、自己株式の取得については「原則として剰余金から資本準備金と利益準備金を除いた額の範囲内でしか取得ができない」という財源規制が会社法にあります。

したがって、財源規制をクリアできない場合は減資手続きで「資本金をその他資本剰余金への振り替え」が必要です。

そして、自己株式の消却をして発行済の株式数を減らすには、その他資本剰余金と自己株式の取得価額を相殺します。

資本金・資本準備金と自己株式の取得価額が直接相殺できないため、自己株式の消却もその他資本剰余金の残高が必要です。

自己株式の取得にも消却にもその他資本剰余金の残高が多い方が良いので、償還を前提とした社債型優先株を発行した場合には、なるべく早い時期に償還予定額をその他資本剰余金としておいた方がイイですね。

最後に

資本性劣後ローンと社債型優先株はどちらも債権者への弁済が劣後する資金調達形態です。

資本性劣後ローンは会計的には「負債」ですが、金融機関によっては「資本」とみなしてくれます。

コロナ禍のなかで債務超過に陥ってしまう可能性があり、資金調達が困難であるという時は利用を検討してみてはいかがでしょうか。

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